ウンコう日誌(第866号)

蒸気動車・釜ヶ崎ゆき】

大阪民国大阪ユニオン駅

世界中から流れ着いた労働者、日本列島の各地から流れてきた日雇いの男たち、そしてどこから来たのか分からない人間がごった返す巨大ターミナルの片隅に、古ぼけた線路がある。

そこに停まっているのが、害吉鉄道の名物車両――蒸気動車

小さな車体の屋根から、黒い煙突がにょっきり生えている。

汽笛。
「プォーーーッ」

客が乗り込む。

「おい兄ちゃん、釜ヶ崎いくんか?」
「そやで。仕事ある言うて聞いたんや」

横では外国人労働者たち。

「काम छ? काम छ?」
「งานมีไหม」
「工作有没有?」

車掌(大阪クレオールで怒鳴る)

「釜ヶ崎いくで!釜ヶ崎!
काम!งาน!仕事あるかもしれんで!」

蒸気動車の運転士は、石炭を放り込む。

ガタン。

ガタン。

蒸気機関の音とともに、小さな車両がゆっくり動き出す。

「ポンポンポンポン…」

大阪ユニオン駅の巨大な雑踏を抜けると、すぐに堀江新地。

バーや屋台のネオンがまだ昼間なのに点滅している。

客が窓から顔を出す。

「おい見てみい、あれ何人や」

「ဗမာ…かな」
「अरे नेपाली है」

誰も確信がない。

蒸気動車はさらに南へ。

芦原橋(本社前)駅。

ここで半分くらい降りる。

「おおきにー!」

「감사합니다!」

「धन्यवाद!」

残りの客を乗せ、蒸気動車は釜ヶ崎へ向かう。

線路は錆び、枕木はところどころ割れている。

だがこの線路は、今でも毎日、人間を運んでいる。

最後の駅。

釜ヶ崎。

蒸気動車が止まる。

プシューーーーッ。

客が降りる。

「仕事あるかなあ」

「काम मिले?」

「まあ…探すしかないやろ」

運転士がつぶやく。

「毎日毎日、よう運ぶわ…」

車掌が笑う。

「ここは大阪民国やで。
人間が流れ着く限り、この汽車は走るわ」

蒸気動車は、また煙を上げる。

次は大阪ユニオン駅へ戻る。

次の客を運ぶために。

――害吉鉄道 蒸気動車
大阪ユニオン駅〜芦原橋(本社前)〜釜ヶ崎

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