ウンコう日誌(第854号)

それは、害吉鉄道の蒸気動車107号である。

大阪ユニオン駅の高架下は、今日も湿った煤と汗の匂いが渦を巻いていた。世界中から流れ着いた労働者たちが、行き先の分からぬまま固まっている。

107号は、機関車でも電車でもない。自らの腹に小さなボイラーを抱え、ぶすぶすと煙を吐きながら走る、時代に取り残された乗り物だ。

芦原橋(本社前)を経て、釜ヶ崎へ。
大阪ユニオン駅に着いた日本列島各地の貧しい労働者を運ぶのが、こいつの役目だった。

発車前、ホームでは怒号とも祈りともつかぬ言葉が飛び交う。

「おっちゃん、これ釜ヶ崎行きやな?」
「그래, 釜ヶ崎까지 간다. 빨리 타라!」
「快点上车!别挡路!」
「เร็วๆ ไปทำงานนะ!」
「काम छ, काम! 釜ヶ崎मा काम छ!」
「வேலை இருக்கா? 釜ヶ崎 போறேன்!」
「काम, काम… पैसा चाहिए…」
「ሥራ አለ? 釜ヶ崎?」

大阪クレオールは、怒鳴り声と共に混ざり合い、煙に溶けていく。

運転士は煤だらけの手でバルブを開ける。

ぷしゅううう。

107号は、ゆっくりと動き出した。

窓の外、ユニオン駅の雑踏が後ろへ流れる。北摂サントンや千里租界の駐在員たちは、この線路には近づかない。ここは別の世界だ。

芦原橋(本社前)。

小さな本社の前には、社長――自称「鉄道帝」が立っていた。古い軍帽を被り、遠くを睨んでいる。

「大東亜は、線路で支配するのだ。」

本気か冗談か分からぬまま、社員たちは黙って頭を下げる。

再び発車。

車内は木の座席。石炭の匂いと、人いきれ。誰も未来の話はしない。ただ今日の飯の話だけだ。

「今日いくらや?」
「知らん。派遣言うてた。」
「日当、出るんか?」
「몰라. 그래도 가야지.」

107号は、きしみながら進む。
線路の脇には、かつての貨車、錆びた機関車、積まれたドラム缶。大阪民国の混沌が、夕焼けに染まっている。

やがて釜ヶ崎。

ホームとも言えぬ板張りに、人が吐き出される。降りた者は振り返らない。次の仕事、次の寝床、それだけを探して歩き出す。

蒸気動車107号は、しばらく静かに煙を吐いた。

再びユニオンへ戻るためだ。
また新しい混沌を、乗せるために。

小さなボイラーが、ぼこぼこと鳴る。

それは、時代に取り残された音。
しかしこの街では、まだ必要とされている音だった。

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