ウンコう日誌(第839号)

それは、もともと無限列車だった機関車だ。

行き先表示も、時刻表も、終点という概念すら持たず、ただ積めるだけ人と荷を積み、線路が続く限り走るために造られた。
石炭を焚き、水を飲み、蒸気を吐きながら、昼も夜も区別なく走った。誰がどこから乗り、どこで降りたのか、そんなことは誰も気にしなかった。必要なのは「運ぶこと」だけだったからだ。

今は、害吉鉄道の機関車である。

大阪ユニオン駅を出て、芦原橋をかすめ、コンクリ桟橋へ向かう短い区間を、今日も低い唸り声を上げて走る。かつて無限だった路線は、いまや地図の端に押し込められた一本の線にすぎない。それでも、この機関車は速度を落とさない。
「終点がある」という事実を、いまだに理解していないかのように。

コンクリ桟橋では、各国の言葉が混ざった怒号と笑い声が渦を巻く。
「早く乗れや!」
「빨리! 빨리!»
「快点上车!」
蒸気が吹き上がるたび、労働者たちは一斉に咳き込み、それでも笑って荷物を抱え直す。機関車はそれを黙って見ている。見慣れた光景だ。昔は炭鉱夫で、今は港湾労働者。顔ぶれが変わっただけで、運ばれる「重さ」は変わらない。

芦原橋では、本社前で一瞬だけ停まる。
社長はこの機関車を見上げて、「こいつは帝国の象徴や」と言ったという。
鉄道帝
大東亜。
無限列車にとって、それらはどうでもいい言葉だった。自分はただ走るために存在している。それだけだ。

夜になると、線路の先は闇に溶ける。
終点で止められても、機関車の中では、まだ蒸気が鳴っている。
次に走る準備を、誰に言われるでもなく続けている。

無限だった記憶は、もう戻らない。
だが、この機関車は今日も走る。
限られた区間を、まるで無限であるかのように。

いつか線路が完全に途切れても、
きっとこの機関車は、蒸気を吐き続けるだろう。
走ることしか知らない、無限列車だったからだ。

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