ウンコう日誌(第830号)

そのC11は、もともと八つ墓村行きやった。
地図の端にしか載らん支線、盆地の底で終わる、あの不吉な終点。
廃止が決まった日、機関庫の帳簿から名前が消えた。
行き先欄は空白、用途欄には赤字で一言。
「不要」
それを拾ったんが大阪民国や。
「ほっといたら鉄くずやで」
「いや、まだ動く。代用客車引かせたら使えるやろ」
「行き先? そんなん後で考えたらええ」
そうしてC11は、八つ墓村行きの札を外されたまま、
大阪ユニオン駅の片隅に転がり込んだ。
今、牽いているのは代用客車。
元は貨車、窓を開けてベンチを置いただけの、
“人を運ぶついで”の箱。
その中に、ネパール人のラメシュがいる。
コンクリ桟橋で下船して、職を失って、
「どこでもええから乗れ」と言われて乗った。
「ここ、どこ行きですか?」
「知らん。大阪民国や」
「国が行き先なんですか?」
「せや。村よりはデカいやろ」
ラメシュは笑った。
「नेपालでも似た話あります。行き先消えて、国に拾われる रेलवे(鉄道)」
「せやろ。ここもそれや」
運転室で、古参の機関士が言う。
「このC11な、昔は八つ墓村行きで嫌われとった」
「今は?」
「今は“大阪民国所属”や。役所的にはな」
代用客車がきしむ。
床板の下には、元・八つ墓村支線の番号札が外されずに残っている。
ラメシュはそれを見て小さく言う。
「捨てられたけど、生き延びた रेलवेですね」
「せや。大阪民国はな、
捨てられたもん拾う国や」
C11は短く汽笛を鳴らす。
それはもう村に向けた合図やない。
かといって、はっきりした終点もない。
八つ墓村行きやった列車は、
大阪民国に拾われて、
今日も代用客車を引きずりながら走る。
行き先不明。
用途暫定。
それでも——
走れるうちは、使われる。
それが、大阪民国に拾われた鉄道の生き方や。





