ウンコう日誌(第825号)

――それは、かつて「無限列車」と呼ばれていた。

終点という概念を持たず、同じ区間を、同じ時刻表で、同じ顔ぶれを乗せて、ただ走り続けるために造られた列車だった。
旅ではなく、輸送でもなく、「止まらないこと」そのものが目的だった。

だが時代が変わり、無限であることは無用になった。
レールは途中で切られ、予算は削られ、計画は「見直し」という名の廃止になった。

残ったのは、黒い小さな機関車だけだった。

害吉鉄道にやってきた時、その機関車はすでに半分ほど壊れていた。
速度計は動かず、給水装置も応急修理、銘板だけが妙に誇らしげに磨かれている。

「これ、ほんまに走るんかいな」

大阪ユニオン駅の構内で、詰所の作業員が首を傾げる。

「走る走る。無限やったんやからな。
止まらへんのが取り柄や」

そう言ったのは害吉鉄道の社長、通称“鉄道帝”だった。
彼はこの機関車を見た瞬間に決めていた。

――こいつは、害鉄向きや。

無限列車だった頃、この機関車は「終点」を知らなかった。
だが害吉鉄道では、終点が多すぎる。

大阪ユニオン駅
堀江新地。
芦原橋(本社前)。
北津守。
南津守。
そして、コンクリ桟橋。

行き止まりだらけの線路を、機関車は黙って引き受けた。

貨車には、廃材、ガラクタ、そして人。
コンクリ桟橋に流れ着いた労働者、
大阪ユニオンに吸い寄せられた混沌。

芦原橋で、列車を待っていた男が言う。

「兄ちゃん、この汽車、どこ行くんや?」

運転台から返ってきた声は短い。

「行けるとこまでや」

釜ヶ崎支線に入った夜、
木造の客車で、誰かが笑った。

「无尽列车咧?
走到大阪来,变成害铁了啊」

「뭐 어때요.
여기서도 사람 태우잖아」

「せやせや。
无尽やなくても、生き延びとる」

無限列車だった機関車は、初めて「会話」を聞いた。
終わりのない運行では、誰も語らなかった。
だがここでは、止まり、乗り降りし、文句を言い、笑う。

それは効率ではなかった。
だが、生きている感じがした。

コンクリ桟橋駅。
潮とコンクリと錆の匂いの中で、機関車は今日も止まる。

止まることを覚えた無限列車
止まって、また走る。

鉄道帝は満足そうに言った。

「無限いうんはな、
終わらへんことやない。
使われ続けることや」

誰も拍手はしなかったが、
機関車は静かに蒸気を吐いた。

それはもう、無限ではなかった。
だが、害吉鉄道でいちばん“しぶとい”列車になっていた。

――今日もまた、終点から、次の終点へ。
#害吉鉄道

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