ウンコう日誌(第813号)

◆無限列車、害鉄へ堕つ
かつて第四世界のどこかで“鬼殺しの列車”として恐れられた無限列車。
その異界での仕事を終えた後、行き場を失い、気づけば荒れ果てたコンクリ桟橋に打ち上げられていた。
害吉鉄道の整備員が最初に見つけたとき、機関車はすすけきっていたが、
どこか誇りをまとった異様な雰囲気があった。
「なんやコレ……呪われてんのか祝われてんのか、ようワカラン風格やな……」
整備員は肩をすくめたが、社長・鉄道帝がこれを見た瞬間、目を輝かせた。
「……ええやん。これ、うちの“土人輸送部門”にぴったりや。」
鉄道帝は即決で害鉄へ編入させた。
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◆大阪ユニオン駅のホームにて
異界帰りの元・無限列車は、害吉鉄道の雑多な車両の中に混ざってもなお異彩を放っていた。
テンダーには“かつて積んでいた煤”の残滓が残り、
後ろの客車は半ば荷物車と化し、世界中から流れ着いたガラクタや生活残滓が山のように積まれている。
大阪ユニオン駅に停車すると、乗り場にいた労働者が目を丸くした。
「おいコレ、なんや異界感スゴいで?
え、ホンマに乗ってええねんコレ?」
「乗れるけど……壊れても害鉄は責任取らんでぇ?」
駅員があっさり言う。
そこへ運転士が降りてきた。
ボロボロの制帽を傾けながら、にやりと笑う。
「ウチ来たら運命変わるで〜。
あの世から来た列車でも、結局は大阪民国の雑用に回るんや。
ほな、釜ヶ崎まで“地獄の普通列車”出発や!」
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◆釜ヶ崎行き、カオス満載
列車が動き出すと、機関車はかつて戦った鬼の幻影でも見るように黒煙を揺らした。
だが乗客はそんなこと全く気にしない。
「兄ちゃん、ここ座りぃや。荷物は上のガラクタの上置けるで」
「いや、それ燃えへん?」「燃えるけど気にすんなや」
荷物車化した客車の屋根には、なぜか世界各地の“漂着民の私物”が積まれている。
プラ籠、壊れたドア、謎の家具、タイ語の看板、ホーチミンの電飾、
「拾得物/害鉄」の札まで貼ってある。
列車の揺れでガラクタがガラガラ鳴り、
ときどき原因不明の悲鳴が混じるが、誰も驚かない。
「ほいほい、今日も地獄の底まで一直線やで〜。
乗り遅れたら次の列車は三時間後や!」
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◆そして、元・無限列車はこう呼ばれる
害吉鉄道に流れ着いたその日から、
この車両は地元民の間でこう呼ばれるようになった。
「外道列車(げどうれっしゃ)」
かつて鬼を運び、今は大阪民国の混沌を運ぶ。
世界の“濁り”を積み込んで、今日も芦原橋(本社前)へ、釜ヶ崎へ、そしてコンクリ桟橋へ。
機関車は思う。
――異界よりこっちのほうが、よほど地獄やないか。
そう呟くような煤を吐きながら、
外道列車は青いレールの上をガタガタ走り続ける。





