ウンコう日誌(第791号)

かつて岡山県の山奥を走っていたC11形蒸気機関車。
八つ墓村の村人を運び、血の匂いと怨霊の呻きに包まれたその鉄路は、ある日を境に封鎖された。
だが時は流れ──。
老朽化した車体を捨てるでもなく、どこからともなくやって来た黒塗りのトレーラーがそれを載せ、
「害吉鉄道行き」とだけ書かれた伝票を残して消えた。
行き着いた先は大阪民国。
コンクリ桟橋駅の片隅、潮風と油の混じった空気の中で、
C11 207号は再び火を入れられた。
貨車には、釜ヶ崎へ送る労働者や牛、壊れかけた機械、
時には意味の分からないガラクタまで積まれる。
夜明け前、芦原橋(本社前)を発つ。
吐き出す煙はもう黒くない。
八つ墓の亡霊ではなく、南津守のパン工場の煙突と同じ白い蒸気。
運転士のジンさんは笑って言う。
「この機関車な、昔は人間を地獄に運んどったらしいで。
せやけど今はちゃう。地獄から帰ってきたもんを運んどるんや。」
車掌が笛を吹く。
牛の鳴き声が汽笛に混じる。
列車は青いプラの軌道をギシギシ鳴らしながら、
今日もコンクリ桟橋へ向かって走る。
──煙の向こう、八つ墓の怨霊も、少しだけ微笑んだように見えた。