ウンコう日誌(第786号)

大阪民国の混沌をつなぐ害吉鉄道。その中でもひときわ異彩を放つのが、緑色の小さな車体に蓄電池を積んだ「107号動車」である。

昭和の忘れ物のような姿だが、貨物の隙間に労働者や子どもを詰め込み、ぎこちないモーター音を響かせながら、今日も大阪ユニオン駅と釜ヶ崎のあいだを往復している。

107号が特別扱いされるのは、毎年10月2日、**「害鉄記念日」**に必ず先頭に立って走るからだ。害吉鉄道が創立された日を祝う祭りで、この日だけは沿線の屋台が立ち並び、ユニオン駅前では「鉄道帝」自ら演説をぶち、コンクリ桟橋から流れ着いた各国の労働者も入り乱れて酒盛りをする。

蒸気動車や木炭動車が煙を上げるなか、107号は静かに「ジジジ」と音を立てて発車する。その姿に人々は「無煙の奇跡」と手を合わせる。電気など安定供給されぬ大阪民国において、どうしてこの小さな車両が生き延びているのか誰も知らない。蓄電池を載せたまま数十年、バッテリーが一度も尽きないという噂さえある。

今日も記念日のパレードが始まる。ユニオン駅から堀江新地、芦原橋本社前を抜けて、釜ヶ崎へ。屋根に乗った子どもたちが手を振り、駅前の酔客が大阪クレオールで叫ぶ。

「ヤッター! 害鉄記念日や! 107号マンセー!」

やがて日が暮れると、107号は青白い灯をともして再びユニオン駅に帰ってくる。人々はその姿に未来の希望を重ねるが、鉄道帝は高笑いをしながらこう言った。

「これぞ大東亜を照らす電気の光や! 我が害吉鉄道、永遠なり!」

正気かどうかは、やはり誰にもわからなかった。

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