ウンコう日誌(第772号)

大阪ユニオン駅の片隅。
雑多な多国籍労働者のざわめきのなかで、一両の古びたC58が煤けた煙突を揺らしていた。社紋のエンブレムを誇らしげに掲げているが、その素性は複雑だ。

もとは北海道の天塩炭鉱鉄道に所属し、極寒の北辺で石炭列車を牽いていた。しかし炭鉱が閉山となると、行き場を失い、縁あって大阪民国へと流れ着いた。鉄道帝が「北の労働者魂を象徴する機関車や」と大言壮語して買い付けたのである。

しかし、害吉鉄道では石炭列車などほとんど存在しない。C58は大阪ユニオン駅から芦原橋、さらにはコンクリ桟橋へと、流れ着いた労働者を載せて走る役目を担わされた。客車にはベトナム語、中国語、ハングル、ビルマ語の落書きがびっしりと残り、屋根には荷物と共に人々までもがへばりついている。

「社型C58や!大輪(だいりん)のヘッドマークつけて走るんやで!」
駅員はそう叫びながら、労働者を無理やり押し込む。

しかしC58は呟くように煙を吐いた。
――ワシはほんまは、天塩の凍てつく大地で、白い息を吐くのが似合っとった。
――けど今は、このコンクリと雑踏の海を走っとる。

夜のコンクリ桟橋。
沖には阪鮮航路の錆びた貨客船が停泊し、甲板にはさらに大勢の人影が蠢いている。C58は労働者を積んだまま、うめき声のような汽笛をあげた。

「おい鉄道帝、ワシらどこへ行くんや。大東亜を支配するとか、正気なんか?」
答えは返らない。ただ騒乱の街、大阪民国の雑踏だけが響いていた。

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