ウンコう日誌(第771号)

大阪民国の害吉鉄道には、いまなお「蒸気動車」と呼ばれる奇妙な車両が現役で走っている。

それは蒸気機関と電車の折衷のような姿で、車体は路面電車に似て小ぶりながら、屋根には黒々とした煙突が突き出している。

――大阪ユニオン駅

列車を待つ群衆の中には、関西弁に混じって「ສະບາຍດີ」「Apa kabar」「안녕하세요」など、ありとあらゆる言語が飛び交っていた。

「おい兄ちゃん、はよ釜ヶ崎行きの蒸気バスきたで!」

「バスちゃうわ、これ汽車やろ!」

「汽車でも電車でもかまへんがな、のるだけや!」

運転士は煤にまみれた制服を着て、ラオス人の少年を助手にしていた。少年は石炭をくべながら、大阪クレオール混じりで笑う。

「師父、火いれすぎたらまた爆發すんで!」

「かまへんかまへん、ケンチャナヨ精神や!」

汽笛のかわりに甲高い笛が鳴り、蒸気動車はぎしぎしと動き出した。

車内には、荷物を抱えた九州からの出稼ぎ労働者、東南アジアの港から流れてきた水夫、そして釜ヶ崎の寄せ場に向かう日雇いたち。皆、行き先は違えど「今日を生き延びる」一点で結ばれていた。

窓の外を見やれば、堀江のネオンサインとインドネシア料理の屋台、そして煤けた工場の煙突がごちゃ混ぜに過ぎていく。

車掌が叫ぶ。

「次ハ、アシハラバシ! 本社前〜!」

どこの国の鉄道なのか誰も説明できない。だが確かに、この蒸気動車は大阪民国の混沌そのものを運んでいた。

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