ウンコう日誌(第762号)

大阪民国・大阪ユニオン駅の10番線。
青いレールの上に、今日も「無限列車」が静かに煙を吐いていた。機関士は、かつて大陸の戦線で補給列車を走らせた老人で、「この列車は時間も距離も関係なく走る」と真顔で言う。乗客はそれを冗談だと思って笑うが、釜ヶ崎に着くまでに何度も夜が明け、車窓に見える景色がアジアのどこかの港や戦場跡に変わるのを目撃すると、その笑いは消える。
今日は荷物車に、ミャンマー産のチーク材、カンボジアから来た中古バイク、そしてコンクリ桟橋で拾われた各国の労働者たち。車内では、タガログ語と広東語と大阪ピジンが飛び交い、車販の女将は「カレーかラーメンか?」とだけ聞く。支払いは現金、人民元、バーツ、何でもOK。釣りは大体チューインガム。
目的地はいつも「終着・釜ヶ崎」。だが、終着にたどり着ける保証はない。途中で北津守の闇市に吸い込まれることもあれば、翌朝気づけば海南島の港に停まっていることもある。
それでも、人は乗る。大阪民国のこの列車だけが、行きたい場所に行けるかもしれないから。