ウンコう日誌(第761号)

害吉鉄道の蓄電池動車・407号は、戦前に製造された古参車両だ。もとは軍需工場の構内輸送用として作られたが、戦後の混乱期に払い下げられ、何度も塗装と部品を替えながら大阪民国を走り続けている。
この車両の特徴は、天井に並んだ巨大なバッテリー換気口と、車体側面にある手回し充電口だ。沿線の小さな変電所で、駅員が手回しハンドルをぐるぐる回して蓄電池に電気を送り込む光景は、すでに観光名物になっている。だが、その充電効率は悪く、満充電でも大阪ユニオン駅〜釜ヶ崎の短い区間しか走れない。
乗客は、大阪ユニオン駅に着いたばかりの九州や四国からの出稼ぎ労働者、日雇いの港湾作業員、古着屋の仕入れ帰りの商人など。釜ヶ崎までの車内は、荷物や人が入り乱れ、時に生魚や干しイカの匂いが漂う。運転士の腕は、この混沌の中を停電させずに走らせることで鳴らしてきた。
ある日、港からの荷役作業が長引き、夕方のラッシュに充電が間に合わなかった。残量計はすでに赤く点滅している。それでも407号は、満員の乗客を乗せて夜の街へと走り出す。電気が尽きるか、終点までたどり着けるか、誰もが息をのむ中、釜ヶ崎の街灯が見えた瞬間、車内には拍手と笑い声が広がった。
この蓄電池動車は、今もなお大阪民国の混沌と活気を乗せて走り続けている。
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