ウンコう日誌(第870号)

「चल् चल्!快点啦!빨리 타라!」
構内には、ネパール語、中国語、韓国語、大阪弁がごちゃ混ぜになった声が飛び交う。
ホームの端、煤で黒ずんだ一編成がゆっくりと入ってくる。
――木炭動車。
屋根の上には、布袋やら木箱やら、そして人まで乗っている。
車内は当然満員、いや、それ以上だ。
「अरे भाई、ここ釜ヶ崎行きやろ?」
「맞다맞다、芦原橋経由や。降りるなや途中で!」
「唔該、我係第一次嚟や…」
車掌らしき男は、煤だらけの顔で笑う。
「ほな行くで。燃料は木炭や。止まったらみんなで押すんやで。」
ゴトン、と音を立てて列車は動き出す。
エンジンの奥では、赤く燃える木炭が唸りを上げている。
石油なんて贅沢品は、この区間には回ってこない。
窓から見えるのは、錆びた工場、崩れかけた住宅、そして線路沿いに広がる露店群。
「妈的、この国、ほんまカオスやな…」
「カオス?ちゃうちゃう、これが大阪民国や。」
芦原橋(本社前)に近づくと、さらに人が乗り込んでくる。
「자리 있어? いや無いやろ!」
「詰めろ詰めろ!大家挤一下!」
誰かが笑い、誰かが怒鳴り、誰かが歌い出す。
煙突から黒煙が上がる。
車内にも煤が舞い込む。
それでも、誰も降りない。
釜ヶ崎は、彼らの「行き先」であり、「始まり」だからだ。
「आज से नया काम मिलेगाかな…」
「冇所谓啦,生きてたらええやん。」
木炭動車は、咳き込むような音を立てながら、
ゆっくりと、しかし確実に進んでいく。
その先にあるのが、希望か、ただの労働か、
それは誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは――
この列車が止まらない限り、彼らも止まれない、ということだった。





