ウンコう日誌(第860号)

──大阪民国・害吉鉄道。
青い軌道の上を、緑の蒸気動車107号が、ふう、と白い息を吐いた。
ここは「不法占り裏口」と書かれた、いかにも怪しげな簡易停留所。コンクリート桟橋から流れ着いた者、ユニオン駅から弾き出された者、行き場のない者たちが、次の居場所を占うように立ち尽くす場所だ。
黒い煙突を載せた小さな蒸気動車は、機関車でも客車でもない、中途半端な存在。
貨物のついでに人を乗せ、人のついでに荷を積む。
害吉鉄道らしい、あいまいな乗り物だ。
プシュー……。
扉が開く。
「ओइ、釜ヶ崎まで行くんか?」
「가마가사키? 응, 거기 일자리 있다카더라。」
「有工头喺度等,快啲上車啦!」
「ขึ้นเลย ๆ เดี๋ยวเต็มนะ!」
大阪クレオールが飛び交う。
車内には、木箱に腰かける男。
床に座り込む若者。
炭の匂い、油の匂い、汗の匂い。
蒸気動車の運転士が、窓から顔を出す。
「ほな出るで。芦原橋(本社前)経由、釜ヶ崎行きや。乗り遅れたら知らんで。」
ベルが鳴る。
チン、チン。
屋根の煙突から、黒い煙がゆらりと上がる。
まるで、この街の混沌そのもののように。
「老板,真係有工做?」
「काम त छ, तर भाग्य चाहिन्छ。」
「भाग्य? ほなこの停留所、当たってるやんけ。」
誰かが笑う。
誰かが黙る。
蒸気動車107号は、ゆっくりと動き出す。
後ろの無蓋貨車には、古いトランク、麻袋、見知らぬ国の文字が書かれた木箱。
コンクリ桟橋から流れ着いた混沌は、
芦原橋で仕分けられ、
釜ヶ崎へと運ばれていく。
遠くで、ディーゼルカーが唸りを上げている。
本線では、機関車牽引列車が威張って走る。
だが、この蒸気動車は違う。
時代遅れで、小さくて、煤けている。
それでも今日も走る。
「चलो चलो! 늦는다! 快啲啦!」
害吉鉄道 蒸気動車107号。
その行き先は、いつも同じ。
だが、乗る者の未来は、誰にも分からない。
煙だけが、空へ昇っていった。





