ウンコう日誌(第859号)

害吉鉄道にやって来たのは、はるばる北の果て・天塩炭鉱鉄道から渡ってきた社型C58であった。
社型――すなわち、国鉄C58と同型を私鉄で自前製造したという、炭鉱の意地の結晶である。
私鉄がC12ならまだしも、C58クラスを持つなど異例中の異例。
それだけ天塩の炭鉱は、かつて「帝国の動脈」を自称するほどに隆盛を極めていた。
だが、石炭は海を越え、時代も越え、そして捨てられた。
北の廃線から船で南下し、阪琉航路のはしけにくくられ、
ついにコンクリ桟橋へと流れ着いたのである。
蒸気は、まだ死んでいなかった。
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コンクリ桟橋駅。
세계各국에서 떠내려온 노동자들이 부둣가에 모여 있다。
「ဒီစက်ကြီး ဘာလဲ?」
「এইটা পুরান লোকোমোটিভ না?」
「यह तो बड़ा भारी है रे!」
鉄道帝は満足げにうなずいた。
「見よ。この社型C58こそ、害吉鉄道の未来や。大東亜蒸気圏の復活やで。」
駅助役(釜ヶ崎出身)が小声でつぶやく。
「社長、正気でっか……?」
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炭鉱帰りの黒光りするボイラー。
赤い丸板にはかすれた「天塩」の文字。
構内では緑色の古参電車たちがざわつく。
「야야 저거 뭐야, 완전 군함같이 생겼다。」
「มันมาจากไหนเนี่ย?」
「炭坑?煤だらけやんか。」
C58は何も言わない。
ただ、静かに安全弁を震わせる。
シュウウウ……。
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初列車は、大阪ユニオン〜芦原橋(本社前)〜コンクリ桟橋。
かつて石炭を引いた牽引力は、
今は世界から流れ着いた労働者を運ぶ。
「釜ヶ崎まで頼むわ。」
「काम है उधर。」
「ငါလည်း အလုပ်ရှာမယ်。」
車掌は大阪クレオールで叫ぶ。
「ほな発車やでー! 출발や! चलो चलो!」
ドラフトが鳴る。
ボォォォォォーーーッ!!
その音は、港湾のコンクリートを震わせ、
北津守の倉庫街を揺らし、
南津守の波止場に反響した。
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鉄道帝はホーム端で腕を組む。
「見たか。蒸気は文明や。炭鉱は未来や。」
背後で整備士がささやく。
「未来ちゃう、過去の亡霊やろ……」
しかしC58は走る。
天塩で石炭を運び、
今は混沌を運ぶ。
かつて帝国の燃料だった黒い塊は、
いま大阪民国のカオスを温める燃料になった。
煙は高くのぼる。
それは北の空にも、
釜ヶ崎の空にも、
そして社長の妄想の大東亜にも、同じ色だった。
シュポ、シュポ、シュポ――。
害吉鉄道の社型C58は、
今日も時代遅れの誇りを引いて走る。





