ウンコう日誌(第853号)

流線型C53は、害吉鉄道の中でもひときわ異様な存在だった。

大阪ユニオン駅の薄汚れたコンコースに、その黒い鼻面がぬっと現れると、ざわめきが起こる。丸みを帯びた流線型の車体に、金色のプレート。「C5343」。かつては帝都の幹線を疾走したというが、今は大阪民国の貨物ついでの客車を牽く。

「おい見てみぃ、流線やで。なんやこれ、未来か過去かわからんわ」

「未来ちゃう、過去や。めちゃくちゃ過去や」

ホームの端で、朝鮮語と広東語と大阪弁が混じる。

「야, 이거 진짜 멋있다. 완전 레트로 아니냐?」

「レトロちゃう、時代に置いてかれとんねん」

今日の編成は重い。無蓋車には鉄屑、ボロボロのコンテナ、どこから流れ着いたのか分からぬ家財道具。そして最後尾に小さな客車。窓からは、コンクリ桟橋に流れ着いた労働者たちが、無表情で外を見ている。

害吉鉄道社長、通称「鉄道帝」は、本社前の芦原橋で腕を組んでいた。

「流線型こそ文明の象徴だ。大東亜はこの鼻で貫く」

正気かどうかは、誰も知らない。

汽笛が鳴る。

ボォォォォ——

その音は、昭和の空気をそのまま引きずっているようだった。堀江新地を抜け、芦原橋(本社前)で一度停まり、さらに南へ。線路脇には、トタン屋根のバラックと、多国籍の看板。

「काम है क्या?」
「有工冇啊?」
「仕事あるんかいな」

C53は黙って走る。流線型の滑らかなボディは、本来なら高速で風を切るためのもの。しかし害吉鉄道では、せいぜい時速30キロ。未来を夢見て設計された形が、混沌の街をのろのろと進む。

芦原橋からは、支線へ向かう蒸気動車とすれ違う。

「おいC53兄貴、今日も重そうやな」

「……」

返事はない。ただ黒煙が空へ溶ける。

やがて、コンクリ桟橋が見えてくる。灰色の海。阪琉航路の船が錆びた腹を見せ、阪鮮航路の船が波に揺れている。

「다음은 コンクリ桟橋, 콘쿠리 잔바시〜」

車掌の放送は、どこの国の言葉か分からない。

客車から降りる人々。新しく来た者、どこかへ去る者。流線型C53は、その全てを知っているかのように、静かにブレーキを締める。

本来なら特急を牽くはずだった機関車。
だが今は、世界中から流れ着いた混沌を、ただ黙って運ぶ。

夕暮れ、赤く染まる海を背に、C53は折り返す。

未来を夢見た流線は、今日も過去のまま、大阪民国を走る。

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