ウンコう日誌(第837話)

社型C58は、今日も害吉鉄道の機関区の隅で、低い息をついている。
かつて本線用として生まれた設計の名残は、今も骨格にだけは残っているが、外板は煤と錆に覆われ、銘板の文字も半分ほど読めなくなった。
この機関車は、もう「特別扱い」される存在ではない。
ただの実用機だ。
朝になれば火を入れられ、コンクリ桟橋行きの貨物を牽き、夕方には戻ってくる。
それだけの毎日を、何年も繰り返している。
大阪ユニオン駅を出るとき、汽笛は最低限しか鳴らさない。
この路線では、蒸気の音はもはや珍しくない。
蒸気動車も、蓄電池動車も、木炭動車も走っている。
C58の少し整いすぎた走り方だけが、逆に浮いて見える。
芦原橋では、本社の古い建物の前を静かに通過する。
社長――鉄道帝は、最近はもうホームに出てこない。
野心も妄想も、今では書類の山の奥に埋もれている。
それでも、このC58だけは廃車にしない。
理由を聞いても、誰もはっきりとは答えられない。
コンクリ桟橋に着くころには、機関車は煤だらけだ。
港から上がってくる湿った空気が、シリンダにまとわりつく。
荷役を待つ労働者たちは、機関車を見てももう驚かない。
ただ、待ち時間の暇つぶしに、こんな言葉が飛ぶ。
「这台火车,看起来比我们还老啊」
「그래도 잘 달리네」
「壊れなきゃ、まだ使えるだろ」
誰も、この機関車の来歴を気にしない。
天塩炭鉱だとか、社型だとか、そんな話はどうでもいいのだ。
重要なのは、今日も動いたか、止まらなかったか、それだけ。
夕方、空荷になった列車を牽いて戻る。
大阪ユニオン駅に近づくころ、C58の足取りは少しだけ軽くなる。
本線用として設計された癖なのか、帰り道の方が安定している。
機関区に収まると、火が落とされる。
静かになると、あたりには別の音が残る。
蒸気動車のバッテリーを冷やす音、ディーゼルカーのアイドリング、遠くの港のクレーン。
社型C58は、その中で特に主張しない。
「本来はもっと速く、もっと遠くを走れた」
そんなことを語る相手もいない。
ただ、今日も害吉鉄道の一員として、
世界中の混沌を少しだけ運んだ。
それで十分だとでも言うように、
黒い車体は、夜の機関区で静かに冷えていく。





