ウンコう日誌(第835号)

害吉鉄道・大阪ユニオン駅構内。
朝とも夕ともつかぬ灰色の時間帯、青い線路の上に、煤をまとったC57が止まっていた。
ボイラーの側面には、かつて台湾で名乗っていた名残――CK285の記憶が、薄く、しかし確かに染みついている。
この機関車は、日本を出て、南へ渡り、また戻ってきた。
帝国の時代に輸出され、戦後は異国の空気と雨と人いきれの中で走り、
そして今は、大阪民国という、地球の綻びみたいな場所に流れ着いている。
今日は貨物牽引。
後ろには、港で拾われた荷と、人と、言葉がごちゃ混ぜに積まれている。
(会話)
「喂——この汽車、えらい古いなあ」
「老車啦、but 強いで。台湾回りや」
「台灣?真的假的?」
「ほんまほんま。山越えて、香蕉の匂いの中走っとった言うてたで」
「哇…這台火車,命硬啊」
「命硬どころか、まだ現役や。害吉鉄道やからな」
プラットホームの端で、港上がりの労働者が笑う。
朝鮮語、広東語、ベトナム語、関西弁が、同じ息で吐き出される。
(地の文)
C57は黙っている。
だが、シリンダの奥には、かつての熱帯の湿気も、
台北郊外の赤土も、
蒸し暑い機関区で浴びた罵声も、すべて残っている。
それでも今は、大阪ユニオン駅からコンクリ桟橋へ。
台湾ではもう聞くことのない、やかましい混声の世界へ向かう。
(会話)
「走れるんか?もう歳やろ」
「走る走る。
鉄道帝が言うとったわ。
『帝国は終わっても、蒸気は終わらん』って」
「頭おかしいな」
「せやから社長やねん」
(地の文)
汽笛が鳴る。
短く、かすれた音。
だが、それは確かに「出発」を告げていた。
台湾から大阪へ。
帝国から混沌へ。
C57(CK285)は、今日もまた、
世界の底を縫うように、青い線路の上を走り出す。





