ウンコう日誌(第834号)

木炭動車は、不逞町駅でいったん息を整えていた。

屋根の上の木炭ガス発生炉は、もう新品の角などどこにも残っていない。鉄板は熱で歪み、継ぎ当てだらけで、ところどころ別の時代のボルトがねじ込まれている。炭を焚くたび、甘いような、焦げたような、どこか懐かしい匂いが漂った。

駅舎の前で、男が炭俵を下ろす。
「야, 오늘 숯 질 좀 별로다 아이가」
「しゃあないやろ、港で拾うた炭や。文句言うたら走らんで」

害吉鉄道の木炭動車は、貨物のついでに人を運ぶ。いや、人のついでに貨物を運ぶ日もある。日本列島の奥から流れてきた労働者、海を越えてコンクリ桟橋に流れ着いた連中、そのどちらも、ここでは区別されない。

車内では、ベンチに腰掛けた男たちが、言葉を混ぜて時間を潰している。
「明日、仕事あるか?」
「有る言うてた、たぶん。有る言うとった人間が、もう消えとるけどな」
「ㅋㅋㅋ まあええやろ」

木炭動車の運転士は、前を見つめたまま、何も言わない。
この車両は、速く走るためのものではない。静かに、確実に、止まらず進むためのものだ。

汽笛代わりの短い警笛が鳴る。
「뽀ー」

発生炉の中で炭が赤くなり、ガスが生まれ、古いエンジンが目を覚ます。
青い軌道の上を、木炭動車はゆっくりと動き出す。

不逞町駅の駅舎は、また一日、何も言わずに見送った。
ここでは誰も、行き先を深くは聞かない。
聞いても、答えはだいたい同じだからだ。

――芦原橋(本社前)まで。
その先は、また考える。

遠ざかる木炭の匂いだけが、駅に残った。

Pocket

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です