ウンコう日誌(第831号)

大晦日の大阪民国は、昼と夜の境目が曖昧になる。
大阪ユニオン駅では、年越しのカウントダウンよりも、仕事と移動の方が優先される人間たちが、静かに集まってくる。
青いレールの上に据えられたホイットコムの機関車は、年季の入った代用客車を一両だけ従えていた。
本来は貨物用の機関車だが、今夜は旅客も引く。害吉鉄道では珍しいことではない。
「ほな、終夜や。止めへんで」
機関士の声は低く、短い。
時計が二十三時五十分を回っても、誰も慌てない。
代用客車には、コンクリ桟橋から流れ着いた労働者、日本列島各地から来た日雇い、そして言葉も出身もバラバラな人間が混じって座っている。
「형님, 이거 밤새 가는 거 맞아요?」
「맞다 맞다. 아침까지 달린다 아이가」
大阪弁と韓国語が自然に混ざる。
別の座席では、ネパール人の青年が、薄い毛布を膝にかけながら外を見ていた。
「आज रातभरि ट्रेन चल्छ?」
「चल्छ चल्छ。यहाँ害吉鉄道や。止まらへん」
青年は少し驚いたように笑い、
「सस्तो र राम्रो।いい रेलवेだ」と呟く。
零時ちょうど。
汽笛は鳴らされなかった。
祝うためではなく、運ぶための列車だからだ。
ホイットコムは一定のリズムで唸り、代用客車はきしみながらも、確実に前へ進む。
大阪ユニオン駅を出て、芦原橋(本社前)、そしてコンクリ桟橋へ。
芦原橋では、年越し蕎麦の代わりにカップ麺をすする男たちが乗り込む。
「おめでとう、言うても仕事やな」
「せやな。正月も関係あらへん」
コンクリ桟橋では、海の匂いとともに、また新しい乗客が増える。
朝鮮半島行きの船を待つ者、阪琉航路の始発を狙う者、釜ヶ崎へ向かう者。
「नयाँ वर्ष, कामबाट सुरु」
「それでええ。それが害吉や」
夜が深まるにつれ、街は静かになるが、害吉鉄道だけは動き続ける。
終夜運転とは、サービスではない。必要だから走るのだ。
夜明け前、東の空が少し白むころ、代用客車の中で誰かが言った。
「正月やな」
「せやな。でも次は何時発や?」
ホイットコムは答えない。
ただ、また同じ速度で走り続ける。
害吉鉄道の大晦日は、こうして年をまたぐ。
祝われることなく、止まることもなく。





