ウンコう日誌(第821号)

──害吉鉄道・大阪ユニオン駅にて
台湾の山岳線を駆け抜けていた名機・CK285は、海を越えて大阪民国へ流れ着いた。
害吉鉄道の車庫係に言わせれば、
「또 하나 이상한の来よったで……どこから拾うて来たんや社長(サッチャン)……」
と頭を抱えるしかない厄物のひとつだった。
だが社長こと“鉄道帝”は、胸を張ってこう宣言した。
「大東亜鉄路網の遺児(いじ)を、わしが面倒見たるんや!
こいつは元C57、台湾でCK285と呼ばれておった歴戦の美機や!
今後は害吉鉄道で大東亜の物流を担うんやで!」
誰も聞いちゃいないが、本人は大真面目だった。
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◆コンクリ桟橋駅にて
CK285の初仕事は、難民・労働者・漂流商人が入り乱れる大阪民国の玄関口・コンクリ桟橋駅での貨客混載列車だった。
積み荷は家具、米袋、バイクの破片、謎の仏像、そして人間。
屋根の上まで人と荷が積まれ、駅員が叫ぶ。
「おいおい! 屋根の上乗ったらあかんて言うたやろ!
落ちたらウチ責任取らんでェ!」
屋根の上の客が叫び返す。
「괜찮아! 這樣才便宜やろ!行くで行くで〜!」
「ฮ้า〜ッ 難波まで一律料金って最高やわ〜!」
混沌は日常だ。
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◆台湾の魂
CK285が黒煙を上げて動き出すと、乗客がざわめいた。
「おおっ、蒸気やんか!生きとったんかこの黒いん!」
「台湾から来たんやて? ほな客扱いウマいんちゃう?」
運転助手の害吉鉄道社員(大阪クレオール98%)が叫ぶ。
「兄ちゃんら、危ない境界線より前、出んなや!
落ちたらウチら書類地獄やねん!」
CK285は誇らしげに汽笛を鳴らした。
それはどこか、台湾で聞かれた柔らかい音色に似ていた。
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◆釜ヶ崎支線へ
列車は芦原橋(本社前)を経て、釜ヶ崎へ向かう支線に入った。
釜ヶ崎名物の雑然たる街並みが見えてくると、屋根の上の客たちが口々に叫ぶ。
「ここ降ろしてェ〜! わい今日、あいりんで仕事の面接や!」
「え?兄ちゃんそれ“面接”やなくて“日雇い斡旋所の抽選”ちゃうん?」
「細かいこと言わんといてや!」
CK285は知らん顔で走る。
台湾で山を越えたあの軽やかさで、大阪のスラムを縫うように進んだ。
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◆そして害吉の日常へ
大阪ユニオン駅に戻ると、車庫係がため息をついた。
「はぁ……また外国の機関車を無茶使いして……
まぁ、CK285ちゃん、よう働いてくれたな。偉い偉い」
CK285は小さく蒸気を吹き、まるで照れているようだった。
屋根から降りてきた労働者たちは笑いながらこう言った。
「兄ちゃん、ええ機関車やんこれ。
台湾の魂(たましい)やでこれ。
害吉おそるべしやわ。
明日も乗るで〜!」
混沌を運び、混沌を吸い込み、混沌を吐き出す害吉鉄道。
そこに、台湾帰りのCK285はすっかり馴染んでいた。





