ウンコう日誌(第814号)

大阪民国南部、夕暮れの 北津守駅前(きたつもり・ステーションフロント)。
コンクリの匂いと、どこの国の言語か分からんざわめきが入り混じる、害吉鉄道名物のごった煮空間だ。

そこへ、緑色の小さな蒸気動車・107号が「ぷしゅ〜〜」と白い息を吐きながら滑り込んできた。
時代に置いていかれすぎたこの車両は、なんと 蒸気機関を積んだまま単行で走る、害鉄にしか存在しない化石のような乗り物である。

客扱いも貨物扱いも、気分で決まる。
今日の仕事は――北津守→釜ヶ崎への「労働者搬送ダイヤ」。

■車両側のスピーカーが突然しゃべり出した

蒸気動車の車掌代わりを務めるのは、なぜかAIを載せられた古い拡声器。
だがソフトはアジア各地の中古を適当に混ぜたせいで、発声は完全にカオスだった。

〈蒸気動車スピーカー〉
「つぎ〜〜、あしはらばし(本社前)〜〜〜、のりかえぇ〜〜は、なんもあれへん〜〜〜!」

〈ホームのオッサン〉
「ほな言わんでええがな!」

〈蒸気動車スピーカー〉
「ちゃうねん、規定やねん……(小声でぼそっ)」

■発車前、蒸気動車107号のぼやき

運転手が石炭をくべながら車体に寄りかかると、
車体のどこかから 聞こえた気がする。

〈107号〉(大阪クレオール)
「ワイ、また釜ヶ崎かいな……
あの急カーブ地帯、腹のボルト外れんねんて……
ほんでまたあそこの労働者ども、ビール持ち込んで湯気で温めようとすんねん……
蒸し器ちゃうっちゅうねんワイは……」

運転手は特に驚かず、
「ああ、また言うてはるわ」と煙草を吸う。
害鉄では、車両がしゃべるくらい普通のことらしい。

■車内:日本語・韓国語・ベトナム語・意味不明語が飛び交う

発車のベル代わりに鍋を叩くような「コン!コン!」
それを合図に、車両はゆっくり動き出した。

〈乗客A(大阪弁+韓国語ミックス)〉
「アニョ〜、兄ちゃん、窓ひらけへんの?スチームでモクモクなんでぇ?」

〈運転手〉
「開けたら顔まっくろなるで。ワイも昨日までインドネシアの炭鉱夫みたいな顔色やったんや」

〈乗客B(ベトナム語混じり大阪クレオール)〉
「Anh ơi!この列車ほんま cổ quá(古すぎ)やろ!
これ21世紀の鉄道ちゃうで!」

〈107号〉(車体のどこか)
「せやろ……(遠い目)」

■釜ヶ崎駅到着

蒸気を撒き散らしながら、107号は狭いカーブを軋ませ進み、
ようやく 釜ヶ崎 にたどり着く。

ホームには、見たことのない国の労働者が今日も流れ着いていた。
「どこから来た?」と聞くと、
「コンクリ桟橋に着いたらこの列車乗れって言われた」と口々に答える。

〈駅員(大阪クレオール)〉
「はーい、新入りさんら〜、今日も炊き出しこっちやで〜。
荷物はそこ置いて〜。あ、107号は5分後に折返しや、急げ〜〜!」

〈107号〉
「……ワイ、休ませてぇな……」

■そしてまた北津守へ

数分後、107号は再び「ぷしゅ〜〜」と白煙を上げ、
コンクリ桟橋の方角へと走り出す。

大阪民国の混沌の中で、
今日もこの老朽蒸気動車は文句を言いながら、それでも走り続ける。

〈107号〉
「ワイが止まったら困るんやろ……
しゃあない、やったるわ……
ほな、行くでぇぇぇ!」

白い蒸気が夜の空へと薄く消えていった。

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