ウンコう日誌(第801号)

夜の大阪ユニオン駅。
煤けたプラットホームに、黒光りする蒸気動車がひっそりと停まっている。
その名も《無限列車》。正式には「コンクリ桟橋直通・釜ヶ崎経由木炭動車」だが、誰もそう呼ばない。
煙突からは黒い煙ではなく、焦げた木炭の匂いを含んだ灰色の蒸気が立ちのぼる。
機関車のボイラーには“愛国炭鉱組合”の刻印があり、動力は薪と木炭の混焼。
貨車を改造した車体には、無理やり座席を取り付け、荷物の山の上に人々が腰を下ろしている。
屋根にも、すでに人が乗っている。
彼らは皆、帰る場所を持たない旅人たち。
コンクリ桟橋で降ろされた労働者、釜ヶ崎の飯場からあぶれた男、
夜逃げの母子、そして――「どこかへ行きたい」としか言えない女。
列車が汽笛を上げる。
「ポーッ!」
汽笛というより、魂の叫びだ。
ホームに立つ駅員が、帽子を深くかぶってつぶやく。
「また、帰らん列車が出て行きよるわ……」
運転士は、害吉鉄道の伝説的人物、通称“鉄道帝”。
彼は言う。
「行き先? そんなん、走り出してから考えりゃええねん」
列車は夜の大阪を抜け、釜ヶ崎を過ぎ、北津守の闇をかすめ、
やがてコンクリ桟橋の果てへ――
そこは、海と瓦礫と夢の終わりがまざり合う場所。
乗客の誰一人として、降りる場所を知らない。
だからこの列車は“無限列車”と呼ばれる。
走り続ける限り、夢も絶望も終わらない。





