ウンコう日誌(第798号)

大阪民国・芦原橋(本社前)駅。
ホームの片隅で、古い緑の蓄電池動車107号が静かに唸っていた。
昼過ぎの貨物列車を待つあいだ、車掌の朴さんは駅舎のベンチにもたれて煙草をくゆらせている。
――電気は貯められるけど、人間の元気は貯められへんな。
そんな冗談をこぼしながら。
この107号、もとは大阪市電の廃車体を改造して作られた。
害吉鉄道では石炭の入手が難しくなった時期、試験的に「蓄電池動車」として再生されたが、充電設備は芦原橋とコンクリ桟橋の2か所しかない。
だから、走れる距離はせいぜい8kmほど。
それでも、夜明けに大阪ユニオンを発った労働者を釜ヶ崎へ運ぶのにちょうどいい。
午後になると、屋根の上には洗濯物と人影が増える。
みんな日なたぼっこだ。
充電が終わったころ、車体の奥で「じぃ……」という電磁接触器の音が鳴る。
パンタグラフもモーターもないが、彼女は確かに息を吹き返す。
人々を釜ヶ崎へ、あるいはまた明日へと運ぶために。
駅舎の壁には古びた看板——
「バッ電専用 芦原橋本社前」。
緑の車体がゆっくり動き出す。
街の騒音も、遠くの汽笛も、すべてがこの小さな電気の鼓動に溶けていった。





