ウンコう日誌(第793号)

コンクリ桟橋駅に黒光りする流線型C53が到着した。
形式番号は「C5343」。本来は帝都本線の花形だったが、敗戦とともに本国から放逐され、今は大阪民国の害吉鉄道で貨客混合列車を牽いている。
「おまえ、えらいツヤツヤしてるやんけ。どこで磨いてもろたん?」
緑の路面電車が隣の側線から声をかける。
「・・・北津守の機関庫や。夜勤の婆さんが、ワックスと一緒に涙まで塗っとる。」
C5343は低く答えた。排気の音には、どこか疲れと誇りが混じっている。
その夜の列車は、芦原橋(本社前)経由で釜ヶ崎行き。積荷は外国航路から流れ着いた鉄屑、そして行き先のない労働者たちだった。
プラットホームでは、コンクリ桟橋の風が潮と油の匂いを運んでくる。
誰もが無口だった。唯一、屋台の婆さんだけが笑っていた。
「C53はええ音しとるなあ。昔はあんたみたいなんが天王寺まで走っとったんやで。」
汽笛が鳴る。
流線型の鼻先が、夜の闇を割って進みだす。
釜ヶ崎の方角には、まだ星の代わりにネオンが瞬いている。
その光に導かれるように、C5343は思う。
——時代に取り残されても、まだレールの上を走れるうちは、生きているのだ。





