ウンコう日誌(第787号)

かつて異界を走った「無限列車」は、幾多の戦乱と取り壊しを経て、その姿を大阪民国の害吉鉄道へと移した。

老朽機関車を魔改造した漆黒の車体は、夜の闇に溶けるように線路を走り、いまや大阪ユニオン駅から釜ヶ崎、さらにはコンクリ桟橋へと、果てしなき乗客を運んでいる。

客車の屋根には布団、ドラム缶、ブルーシート、そして各国から流れ着いた荷物が山積み。

「無限列車」と呼ばれる所以は、もはや鬼ではなく、尽きることのない労働者の流入にあった。

「おい兄ちゃん、これ釜ヶ崎行きか?」

「せや。ユニオンからやったら一本で行けるで」

「切符は?」

「要らん要らん、どうせ積み残し分は屋根に乗るんや」

大阪クレオールの混じる声が、煤けた客車の窓からあふれてくる。

芦原橋(本社前)に着けば、社長を自称する「鉄道帝」が腕を組んで立っていた。

「ええか諸君。鬼を運ぶ時代は終わった。これからは無限の労働者を、この害吉鉄道が束ねるのや!」

釜ヶ崎で降りるのは、列島の果てから集まった貧しい労働者。

コンクリ桟橋からは、朝鮮、沖縄、東南アジアから流れ着いた者たち。

そのすべてを飲み込み、吐き出しながら、無限列車は今日も走り続ける。

終着はない。

ただ、労働と混沌の街・大阪民国の果てへと──。

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