ウンコう日誌(第782号)

木炭の煙をもうもうと吐き出しながら、害吉鉄道の木炭動車は今日も大阪ユニオン駅を発車した。
番号は「107」。だが車内のプレートには「107」ではなく「一〇七號炭車」と墨書されており、誰がいつ書いたのかすら不明だった。
木炭動車は、蒸気でも電気でもなく、まさに「木炭」で走る。運転士は駅ごとに子どもたちから「炭代」を徴収する。五十円玉や飴玉、時にはパチンコ玉まで差し出され、それを木炭と交換して火床に放り込むのだ。
「아저씨、煙いんやけど!」
「เฮ้ย、目が痛いわ!」
「煤で服が真っ黒や!」
車内では大阪クレオールが飛び交い、客たちは煤をかぶりながら釜ヶ崎へと運ばれていく。
木炭動車の使命はただひとつ──大阪ユニオン駅に流れ着いた日本列島の貧しい労働者を、釜ヶ崎へと送り込むこと。
堀江新地の停留所を過ぎると、沿道の屋台からは焼きトウモロコシや焼きイカの匂いが漂ってくる。だが木炭動車の煙にかき消され、街は常にスモッグのように曇っていた。
そして芦原橋の本社前に差しかかると、社長である「鉄道帝」が偉そうに腕を組んで立っていた。
「おう、この煙こそ大東亜を覆う我が野望の象徴や! 石油も電気もいらん、木炭で世界を征服するんや!」
正気かどうかは、誰にも分からない。
ただ一つ言えるのは、木炭動車107号は今日も煤まみれのまま、釜ヶ崎行きの労働者を乗せて走り続けるということだった。