ウンコう日誌(第777号)

大阪民国の害吉鉄道。
時代に取り残された線路の上を、今日もまた奇妙な列車が走る。
緑色の小さな車体に、なぜか蒸気機関車のような煙突を載せた「蒸気動車」107号。
石炭をくべるほどの大きさはない。運転席の隣に小さな炉があり、車掌がシャベルで炭を突っ込み、火が落ちぬように必死に守る。
その熱でボイラーを温め、車輪を動かすという、なんとも前時代的なシステムだった。
「ほんまに走んのか、これ…」
ホームの男がつぶやく。
芦原橋から釜ヶ崎へ、わずか一駅。大阪ユニオン駅で降りた日本列島各地の出稼ぎ労働者を、まとめて釜ヶ崎へ送り込むためだけの列車。
ガタゴトと発車すると、煙突からは黒い煙がもくもくと立ちのぼる。だが、排気は蒸気と煤が入り交じり、沿線の洗濯物を片っ端から黒く染め上げる。
「また害吉鉄道や!ワシのシーツ返せ!」
窓から怒鳴るおばちゃんの声など、誰も気に留めない。
釜ヶ崎に着く頃には、車内は煤で真っ黒。
それでも労働者たちは黙って降り、荷物を担いで雑居宿へと散っていく。
やがて、蒸気動車107号は息をつきながらホームに停まり、車掌はぼそりと呟いた。
「この街には、煙と煤がお似合いや…」