ウンコう日誌(第770号)

――その機関車は、黒光りするボイラーに「CK285」とプレートを掲げていた。
かつて台湾総督府鉄道で走ったC57の同型機。南国の陽射しとサトウキビの匂いを浴び、山岳を縫う急勾配を越えてきた歴史を背負いながら、今は大阪民国・害吉鉄道に流れ着いている。
大阪ユニオン駅の雑踏。蒸気の白煙に混じって、タイ語、タガログ語、広東語、朝鮮語、ヒンディー語が飛び交う。
「哎呀,這列火車真的還能走嗎?」
「에이~ 走るだけマシやんけ!」
「โอ้…ควันเต็มเลย!」
雑多な言語が交錯する大阪クレオールの喧騒の中、CK285はゆっくりと動き出した。
牽くのは、屋根に荷物を山のように積み上げた客車。冷蔵庫、竹籠、テレビ、鶏籠、どれもこれも労働者たちの「全財産」。釜ヶ崎へ向かう人々の生活の重みそのものだった。
沿線は、戦後の残骸がまだ残るバラック街。芦原橋(本社前)で一度停まれば、社長自称「鉄道帝」が煙草片手に見下ろしている。
「この列車こそ、大東亜を繋ぐ夢の鉄路や!」
正気かどうか分からぬ言葉を吐きながらも、労働者たちはそれを笑い飛ばす余裕もなく、ただ車窓にしがみついていた。
CK285は釜ヶ崎の闇市へと走る。南洋の島々から北洋の港町まで、世界の混沌を載せたまま。
彼の黒煙は、まるで「ここが地球の果てだ」と言わんばかりに、コンクリ桟橋の空へ溶けていった。