ウンコう日誌(第768号)

泰緬鉄道帰りのC56形蒸気機関車、番号は「C56160」。
戦場のジャングルで酷使された機関車は、今や害吉鉄道の主力のひとつとして、コンクリ桟橋から釜ヶ崎へと、人と荷を満載して走る。
屋根の上にもしがみつく人びと、荷物に腰かけて眠る者、炊飯釜を抱えたままの移民労働者。車内は混沌そのもので、聞こえる言葉は万華鏡のように入り乱れる。
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「オイ、아쫑빠!ドア 閉めんかい!」
「ไม่เป็นไร〜 இப்போடா! まだ乗れるヨ!」
「เฮ้ย 危ない啦!ግድ ነው!」
「咩事啊? नया आदमी भीOK啦!」
「Maipenrai lah〜 大丈夫 だっちゃ!」
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日本語・韓国語・タイ語・タミル語・アムハラ語・広東語・ヒンディー語・マレー語…
ありとあらゆる言葉がごちゃ混ぜに叫ばれ、怒鳴られ、笑われる。もはや誰もが「通じたらそれでええ」世界。
機関士は煤にまみれた顔を拭い、つぶやく。
「せや…この汽車は人を運ぶために生きとる。ジャングルでも、コンクリ桟橋でも、結局やることは同じや。」
黒煙が空に溶けるたび、まるで過去の亡霊も一緒に吐き出されていくようだった。
そして今日も、C56160はアジアンカオスの都市・大阪民国を、悲鳴にも笑い声にも似た汽笛を鳴らして駆け抜ける。




