ウンコう日誌(第745号)

昭和どころか、大正すら通り越した――そんな鉄道車両が、今日も煙を吐きながら北津守の街外れを走る。緑色の車体に、妙にでかい煙突。そして何より、その車両に人が乗っているのが信じられない。

これは、害吉鉄道の蒸気動車107号。正式には「蒸気内燃混合軽便旅客輸送装置」として登録されているが、誰もそんな長ったらしい名前では呼ばない。地元の子どもたちは「ゴースト・トラム」と呼ぶし、釜ヶ崎の労務者たちは「湯気で動くボロ」と笑う。

走行区間は、芦原橋から南津守を経て、コンクリ桟橋へ。貨物を積むには非力すぎ、旅客を運ぶには遅すぎる。だが「車輪が回って煙が出る」という理由だけで、今も現役だ。どうやって動いているのか、社内の技術部もよくわかっていない。昔の設計図はロシア語で書かれており、「カムチャツカから来た漂流機関車」との噂すらある。

ある日、北津守の簡素な駅に、緑の蒸気動車がのろのろと到着した。乗客は1人だけ。肩にモン族の布を掛けた老婆で、バナナの房を持っていた。彼女は言った。

「昔、これに乗ってバンコクまで行ったのよ」

誰も信じなかった。けれど、その日から駅舎の壁に、タイ文字の落書きが少しずつ増えはじめた。

この蒸気動車107号、害吉鉄道では「現役車両」として扱われていますが、出発のたびに毎回「着火」に1時間、乗務員の半数は「釜焚きボランティア」です。時代の止まった大阪民国の風物詩として、今日も煙を吐きながら、ゆっくり、じりじりと走り続けます。

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