ウンコう日誌(第739号)

朝霧のたちこめる大阪ユニオン駅。
構内放送は壊れて久しく、代わりに炊き出しのスピーカーが「おにぎり一個百円やでぇ〜」とけたたましく響いていた。
そこへ現れたのが、黒光りする戦時型蒸気機関車。
番号はC56160、通称「サルゴリラチンパンジー号」。
屋根にはいつのまにか野良犬と洗濯物、そして人間数名が乗っている。
誰も文句は言わない。むしろ「今日は屋根空いてへんのか…」と嘆く声すら聞こえる。
列車は芦原橋を過ぎ、釜ヶ崎支線との分岐点をゴリ押しで通過。信号機はうんともすんとも言わず、運転士は手旗で合図を出しながら進行する。
「この先、線路にバナナ落ちてます!注意!」
車掌のマイクが割れる。
座席では軍服姿の老人が、戦時中の手榴弾の話をしているが、誰も聞いていない。
代わりにとなりの車両ではアイドルグループ「南津守48」がゲリラライブ中。
ドラム缶を叩くだけの演奏に、子どもたちが紙ふぶきを撒いていた。
北津守駅に着くころには、屋根の上で煮炊きをしていた乗客が小さな屋台を開いていた。
焼きそば200円、トッピングは焼き鳥の残りカス。
「次は終点、南津守〜、お乗り換えはありません〜。ていうか他社線が敵対してるんで〜」
最後尾の貨物車からは、港へ向かうドラム缶がごろりと転がる。
その中には、阪鮮航路で密航を企む男たちの夢が詰まっていた。
そして今日も、
サルゴリラチンパンジー号は汽笛を鳴らす。
「ヒョロロロロロ……ポーーーーーッ!!」
誰も止められない。
誰も止めようともしない。
これが、大阪民国でいちばん信頼されていない鉄道の、いちばん愛されている列車の、ありふれた一日だった。