月: 2026年2月

ウンコう日誌(第860号) 中央情報課

ウンコう日誌(第860号)

──大阪民国・害吉鉄道。 青い軌道の上を、緑の蒸気動車107号が、ふう、と白い息を吐いた。 ここは「不法占り裏口」と書かれた、いかにも怪しげな簡易停留所。コンクリート桟橋から流れ着いた者、ユニオン駅から弾き出された者、行き場のない者たちが、次の居場所を占うように立ち尽くす場所だ。 黒い煙突を載せた小…
ウンコう日誌(第859号) 中央情報課

ウンコう日誌(第859号)

害吉鉄道にやって来たのは、はるばる北の果て・天塩炭鉱鉄道から渡ってきた社型C58であった。 社型――すなわち、国鉄C58と同型を私鉄で自前製造したという、炭鉱の意地の結晶である。 私鉄がC12ならまだしも、C58クラスを持つなど異例中の異例。 それだけ天塩の炭鉱は、かつて「帝国の動脈」を自称するほど…
ウンコう日誌(第858号) 中央情報課

ウンコう日誌(第858号)

大阪民国の冬は、煤けた匂いがする。 大阪ユニオン駅の片隅、害吉鉄道の引き込み線に、緑色の小さな木炭動車がちょこんと止まっていた。側面に「107」とある。屋根の上には角ばった吸気口。後ろには黒光りする木炭ガス発生装置。 石油が足りない。 金も足りない。 けれど人は、溢れている。 「次、釜ヶ崎ゆきや。乗…
ウンコう日誌(第857話) 中央情報課

ウンコう日誌(第857話)

害吉鉄道・大阪ユニオン駅構内。 錆びた転車台の向こうから、黒光りする機関車がゆっくりと顔を出した。 「おい……あれ、台湾帰りやで」 「台灣回來个?真的假的啊」 「진짜냐… CK285라카더라」 「ກັບມາແລ້ວບໍ」 それがC57、いや、かつて海を渡り台湾で「CK285」と呼ばれた機関車だった。…
ウンコう日誌(第856話) 中央情報課

ウンコう日誌(第856話)

大阪民国・大阪ユニオン駅。 油と汗と、言葉の渦が渦巻く高架下で、緑色の蓄電池動車107号は、今日も静かに息をしていた。 「발차 준비 됐나?」「准备好冇?」「ไป釜ヶ崎やで、 जल्दी चढ़ो!」 ホームに立つ車掌は、大阪クレオールで怒鳴る。怒鳴っているが、どこか優しい。 この列車は速くもないし…
ウンコう日誌(第855話) 中央情報課

ウンコう日誌(第855話)

それは、かつて南方の密林を走ったC56だった。 泰緬鉄道――いまは歴史書の中でしか語られないその路線で、赤い土煙を浴び、雨季の濁流に耐え、ジャングルの匂いをまとったまま帰ってきた。 昭和二十一年の秋。 博多港に陸揚げされたその小さな機関車は、どこか異国の気配を残していた。煙室扉の縁にはうっすらと錆、…
ウンコう日誌(第854号) 中央情報課

ウンコう日誌(第854号)

それは、害吉鉄道の蒸気動車107号である。 大阪ユニオン駅の高架下は、今日も湿った煤と汗の匂いが渦を巻いていた。世界中から流れ着いた労働者たちが、行き先の分からぬまま固まっている。 107号は、機関車でも電車でもない。自らの腹に小さなボイラーを抱え、ぶすぶすと煙を吐きながら走る、時代に取り残された乗…
ウンコう日誌(第853号) 中央情報課

ウンコう日誌(第853号)

流線型C53は、害吉鉄道の中でもひときわ異様な存在だった。 大阪ユニオン駅の薄汚れたコンコースに、その黒い鼻面がぬっと現れると、ざわめきが起こる。丸みを帯びた流線型の車体に、金色のプレート。「C5343」。かつては帝都の幹線を疾走したというが、今は大阪民国の貨物ついでの客車を牽く。 「おい見てみぃ、…
ウンコう日誌(第852号) 中央情報課

ウンコう日誌(第852号)

大阪ユニオン駅の朝は、いつも煤けた匂いがする。 ホームの端に据え付けられた青い線路の上で、緑とクリーム色の小さな木炭動車107号は、ぽこ、ぽこ、と不器用に息をしていた。屋根の上の小さな煙突からは、石炭ではなく、木炭のやわらかい煙が立ちのぼる。時代錯誤。だがそれが、害吉鉄道の矜持だった。 「社長はん、…
ウンコう日誌(第851号) 中央情報課

ウンコう日誌(第851号)

それは、どこの路線図にも載らない機関車だった。 形式はD51。ただし、銘板には小さく 「Д51」 と刻まれている。 一度、国境を越え、言葉を失い、そして帰ってきた機関車の印だった。 大阪民国・害吉鉄道のコンクリ桟橋駅。 コンクリートの割れ目から潮の匂いが立ち上る構内に、その黒い機関車は静かに止まって…
ウンコう日誌(第850号) 中央情報課

ウンコう日誌(第850号)

薄曇りの朝、コンクリ桟橋駅から一本奥に入った留置線で、蓄電池動車は静かに目を覚ましていた。パンタグラフも煙突も持たないその車両は、昨夜のうちに発電所の裏で充電を終え、今はただ緑色の車体を朝露に濡らしている。エンジン音はない。あるのは、床下の電池が発する、かすかな唸りだけだった。 この動車は害吉鉄道で…
ウンコう日誌(第849号) 中央情報課

ウンコう日誌(第849号)

かつてその機関車は、終点を持たなかった。 線路が途切れるところまで走るのではない。線路そのものを引き延ばしながら進む列車だった。 山を越え、谷を越え、時代の境目を踏み抜き、 乗った者は必ず「戻りたくない記憶」と向き合わされる。 降りた者は二度と同じ人間ではなくなる。 それが無限列車だった。 だがある…
ウンコう日誌(第848号) 中央情報課

ウンコう日誌(第848号)

大阪ユニオン駅を出た害吉鉄道の列車は、いつも妙な静けさをまとって走る。 貨車の軋み、線路のうなり、その合間に混じるのが、この蒸気動車107号の低い息づかいだ。 107号は蒸気機関車ではない。 客車でもない。 車体の下に小さなボイラーを抱え込み、自分で蒸気をつくり、自分で走る。 中途半端で、時代遅れで…
ウンコう日誌(第847号) 中央情報課

ウンコう日誌(第847号)

社型C58は、もともと天塩炭鉱鉄道の象徴だった。 国鉄と同じ設計図を、あえて私鉄が引き写し、同じ寸法、同じ構造で作らせた蒸気機関車。 それは単なる見栄ではない。 「国に頼らずとも、うちはここまでやれる」 という、炭鉱資本の矜持そのものだった。 だが炭鉱が閉じ、鉄路が剥がされ、機関車が行き場を失ったと…