中央情報課 27 2月 2026 ウンコう日誌(第860号) ──大阪民国・害吉鉄道。 青い軌道の上を、緑の蒸気動車107号が、ふう、と白い息を吐いた。 ここは「不法占り裏口」と書かれた、いかにも怪しげな簡易停留所。コンクリート桟橋から流れ着いた者、ユニオン駅から弾き出された者、行き場のない者たちが、次の居場所を占うように立ち尽くす場所だ。 黒い煙突を載せた小… 続きを読む
中央情報課 25 2月 2026 ウンコう日誌(第859号) 害吉鉄道にやって来たのは、はるばる北の果て・天塩炭鉱鉄道から渡ってきた社型C58であった。 社型――すなわち、国鉄C58と同型を私鉄で自前製造したという、炭鉱の意地の結晶である。 私鉄がC12ならまだしも、C58クラスを持つなど異例中の異例。 それだけ天塩の炭鉱は、かつて「帝国の動脈」を自称するほど… 続きを読む
中央情報課 23 2月 2026 ウンコう日誌(第858号) 大阪民国の冬は、煤けた匂いがする。 大阪ユニオン駅の片隅、害吉鉄道の引き込み線に、緑色の小さな木炭動車がちょこんと止まっていた。側面に「107」とある。屋根の上には角ばった吸気口。後ろには黒光りする木炭ガス発生装置。 石油が足りない。 金も足りない。 けれど人は、溢れている。 「次、釜ヶ崎ゆきや。乗… 続きを読む
中央情報課 21 2月 2026 ウンコう日誌(第857話) 害吉鉄道・大阪ユニオン駅構内。 錆びた転車台の向こうから、黒光りする機関車がゆっくりと顔を出した。 「おい……あれ、台湾帰りやで」 「台灣回來个?真的假的啊」 「진짜냐… CK285라카더라」 「ກັບມາແລ້ວບໍ」 それがC57、いや、かつて海を渡り台湾で「CK285」と呼ばれた機関車だった。… 続きを読む
中央情報課 19 2月 2026 ウンコう日誌(第856話) 大阪民国・大阪ユニオン駅。 油と汗と、言葉の渦が渦巻く高架下で、緑色の蓄電池動車107号は、今日も静かに息をしていた。 「발차 준비 됐나?」「准备好冇?」「ไป釜ヶ崎やで、 जल्दी चढ़ो!」 ホームに立つ車掌は、大阪クレオールで怒鳴る。怒鳴っているが、どこか優しい。 この列車は速くもないし… 続きを読む
中央情報課 17 2月 2026 ウンコう日誌(第855話) それは、かつて南方の密林を走ったC56だった。 泰緬鉄道――いまは歴史書の中でしか語られないその路線で、赤い土煙を浴び、雨季の濁流に耐え、ジャングルの匂いをまとったまま帰ってきた。 昭和二十一年の秋。 博多港に陸揚げされたその小さな機関車は、どこか異国の気配を残していた。煙室扉の縁にはうっすらと錆、… 続きを読む
中央情報課 15 2月 2026 ウンコう日誌(第854号) それは、害吉鉄道の蒸気動車107号である。 大阪ユニオン駅の高架下は、今日も湿った煤と汗の匂いが渦を巻いていた。世界中から流れ着いた労働者たちが、行き先の分からぬまま固まっている。 107号は、機関車でも電車でもない。自らの腹に小さなボイラーを抱え、ぶすぶすと煙を吐きながら走る、時代に取り残された乗… 続きを読む
中央情報課 13 2月 2026 ウンコう日誌(第853号) 流線型C53は、害吉鉄道の中でもひときわ異様な存在だった。 大阪ユニオン駅の薄汚れたコンコースに、その黒い鼻面がぬっと現れると、ざわめきが起こる。丸みを帯びた流線型の車体に、金色のプレート。「C5343」。かつては帝都の幹線を疾走したというが、今は大阪民国の貨物ついでの客車を牽く。 「おい見てみぃ、… 続きを読む
中央情報課 11 2月 2026 ウンコう日誌(第852号) 大阪ユニオン駅の朝は、いつも煤けた匂いがする。 ホームの端に据え付けられた青い線路の上で、緑とクリーム色の小さな木炭動車107号は、ぽこ、ぽこ、と不器用に息をしていた。屋根の上の小さな煙突からは、石炭ではなく、木炭のやわらかい煙が立ちのぼる。時代錯誤。だがそれが、害吉鉄道の矜持だった。 「社長はん、… 続きを読む
中央情報課 9 2月 2026 ウンコう日誌(第851号) それは、どこの路線図にも載らない機関車だった。 形式はD51。ただし、銘板には小さく 「Д51」 と刻まれている。 一度、国境を越え、言葉を失い、そして帰ってきた機関車の印だった。 大阪民国・害吉鉄道のコンクリ桟橋駅。 コンクリートの割れ目から潮の匂いが立ち上る構内に、その黒い機関車は静かに止まって… 続きを読む
中央情報課 7 2月 2026 ウンコう日誌(第850号) 薄曇りの朝、コンクリ桟橋駅から一本奥に入った留置線で、蓄電池動車は静かに目を覚ましていた。パンタグラフも煙突も持たないその車両は、昨夜のうちに発電所の裏で充電を終え、今はただ緑色の車体を朝露に濡らしている。エンジン音はない。あるのは、床下の電池が発する、かすかな唸りだけだった。 この動車は害吉鉄道で… 続きを読む
中央情報課 5 2月 2026 ウンコう日誌(第849号) かつてその機関車は、終点を持たなかった。 線路が途切れるところまで走るのではない。線路そのものを引き延ばしながら進む列車だった。 山を越え、谷を越え、時代の境目を踏み抜き、 乗った者は必ず「戻りたくない記憶」と向き合わされる。 降りた者は二度と同じ人間ではなくなる。 それが無限列車だった。 だがある… 続きを読む
中央情報課 3 2月 2026 ウンコう日誌(第848号) 大阪ユニオン駅を出た害吉鉄道の列車は、いつも妙な静けさをまとって走る。 貨車の軋み、線路のうなり、その合間に混じるのが、この蒸気動車107号の低い息づかいだ。 107号は蒸気機関車ではない。 客車でもない。 車体の下に小さなボイラーを抱え込み、自分で蒸気をつくり、自分で走る。 中途半端で、時代遅れで… 続きを読む
中央情報課 1 2月 2026 ウンコう日誌(第847号) 社型C58は、もともと天塩炭鉱鉄道の象徴だった。 国鉄と同じ設計図を、あえて私鉄が引き写し、同じ寸法、同じ構造で作らせた蒸気機関車。 それは単なる見栄ではない。 「国に頼らずとも、うちはここまでやれる」 という、炭鉱資本の矜持そのものだった。 だが炭鉱が閉じ、鉄路が剥がされ、機関車が行き場を失ったと… 続きを読む