中央情報課 30 10月 2025 ウンコう日誌(第800号) 芦原橋のヤードに、夕方の汽笛がかすかに響く。 冬の冷たい風が、石炭でも重油でもない、どこか甘い木炭の匂いを運んでくる。 107号は古い木炭動車だった。 燃料タンクのかわりに積まれた木炭箱を、朝いちばんに点火して暖めるのが日課だ。 運転士の張(チャン)さんは、まだ若いのに腕が立つ。「この子は生き物だ」… 続きを読む
中央情報課 28 10月 2025 ウンコう日誌(第799号) 害吉鉄道・大阪ユニオン駅構内。 煙を上げず、静かに青いレールの上に鎮座する黒い機関車。そのナンバープレートには「C58 254」、そして赤いヘッドマークには「天塩」の二文字。 もとは北の果て――天塩炭鉱鉄道。 戦後間もなく、石炭を積んで走り続けた鉱山鉄道の英雄。 だが、炭鉱が閉じ、人も街も消えた時、… 続きを読む
中央情報課 26 10月 2025 ウンコう日誌(第798号) 大阪民国・芦原橋(本社前)駅。 ホームの片隅で、古い緑の蓄電池動車107号が静かに唸っていた。 昼過ぎの貨物列車を待つあいだ、車掌の朴さんは駅舎のベンチにもたれて煙草をくゆらせている。 ――電気は貯められるけど、人間の元気は貯められへんな。 そんな冗談をこぼしながら。 この107号、もとは大阪市電の… 続きを読む
中央情報課 24 10月 2025 ウンコう日誌(第797号) 芦原橋の機関庫に、黒光りする老機関車が静かに息をついていた。 ボイラーの脇には、消えかけた「CK285」の銘板。戦後台湾に残され、三十年近く熱帯の線路を走り抜けた後、民国政府の払い下げで大阪民国に戻ってきた“帰還兵”である。 かつての仲間はもういない。だが、害吉鉄道の社長がこの機関車を見て言った。 … 続きを読む
中央情報課 22 10月 2025 ウンコう日誌(第796号) 害吉鉄道の車庫の奥で、誰にも見向きされず眠っていた緑の小型蒸気動車――通称「阿倍野のモクモク号」が、ひさびさに煙突を黒々と光らせていた。 鉄道帝の気まぐれで、芦原橋(本社前)〜釜ヶ崎支線の臨時列車に抜擢されたのだ。 「おーい、煙が逆流してんで!」 車庫係のベトナム人整備士タインが、油まみれの手ぬぐい… 続きを読む
中央情報課 20 10月 2025 ウンコう日誌(第795話) 害吉鉄道・芦原橋本社前。夕暮れのヤードに、黒く煤けたC56形が静かに止まっていた。 機番は「C56160」。そのナンバープレートの下には、小さく「かばちゃエクスプレス」と書かれた札。だが誰もその由来を知らない。 この機関車は、かつて泰緬鉄道を走った帰還機だった。ジャングルの湿気と赤土をまとい、戦後の… 続きを読む
中央情報課 18 10月 2025 ウンコう日誌(第794号) 害吉鉄道・芦原橋(本社前)駅の片隅。 灰色の空の下、木炭動車107号は、今日も煙突から薄く白い煙を吐き出していた。ディーゼルカーが主力となった今、木炭動車の姿は珍しく、整備工場でも「よう動いとるなあ」と言われるほどの老体である。 運転士の老金(オ・グム)は、帽子を目深にかぶりながらぼそりとつぶやいた… 続きを読む
中央情報課 16 10月 2025 ウンコう日誌(第793号) コンクリ桟橋駅に黒光りする流線型C53が到着した。 形式番号は「C5343」。本来は帝都本線の花形だったが、敗戦とともに本国から放逐され、今は大阪民国の害吉鉄道で貨客混合列車を牽いている。 「おまえ、えらいツヤツヤしてるやんけ。どこで磨いてもろたん?」 緑の路面電車が隣の側線から声をかける。 「・・… 続きを読む
中央情報課 14 10月 2025 ウンコう日誌(第792号) 緑の蓄電池動車は、今日も静かにホームを離れた。 パンタグラフも煙突もないその車体は、夜の街のざわめきの中に溶けていく。 車掌は片手義手の老婆。かつて「電気の娘」と呼ばれた蓄電池職工で、車内では今も古い歌を口ずさむ。 ♪どこへ行くのか この街は ♪煙と鉄と 人の夢 終点は釜ヶ崎。 駅舎の灯りは薄く、看… 続きを読む
中央情報課 12 10月 2025 ウンコう日誌(第791号) かつて岡山県の山奥を走っていたC11形蒸気機関車。 八つ墓村の村人を運び、血の匂いと怨霊の呻きに包まれたその鉄路は、ある日を境に封鎖された。 だが時は流れ──。 老朽化した車体を捨てるでもなく、どこからともなくやって来た黒塗りのトレーラーがそれを載せ、 「害吉鉄道行き」とだけ書かれた伝票を残して消え… 続きを読む
中央情報課 10 10月 2025 ウンコう日誌(第790号) 害吉鉄道の中でも最古参のひとつ、「107号蒸気動車」。 大阪ユニオン駅から芦原橋(本社前)を経て、釜ヶ崎へ向かう。 車体はくたびれ、ボイラーの煙突からは時々しか煙が出ない。 それでも、朝の冷えた空気の中で「しゅぽ、しゅぽ」と息づいていた。 駅名標には「釜ヶ崎支線 堀江新地方面」とある。 小さなプラッ… 続きを読む
中央情報課 8 10月 2025 ウンコう日誌(第789号) 戦後の混乱期、大阪民国の港・コンクリ桟橋に、錆びた貨車を曳いて一台の黒い蒸機が流れ着いた。 その名は「Д51」。ソ連式の銘板を残したまま、樺太の凍土を越えてきた“亡霊機関車”である。 「オレ、もとは北海道のD51や。けど、終戦後に向こうの軍に接収されてな、ロシアの雪原を走っとったんや。」 そう語るよ… 続きを読む
中央情報課 6 10月 2025 ウンコう日誌(第788号) 害吉鉄道の朝は、いつも薄曇りから始まる。 大阪ユニオン駅の片隅で、古びた木炭動車107号が、ゆっくりと煙を吐いていた。 エンジンの代わりに木炭炉がごうごうと燃え、運転士のキム・ハンスがトングで炭をかき混ぜる。 「오늘도 가자, 콘크리부두까지(今日も行くで、コンクリ桟橋まで)」 沿線には芦原橋本社前… 続きを読む
中央情報課 4 10月 2025 ウンコう日誌(第787号) かつて異界を走った「無限列車」は、幾多の戦乱と取り壊しを経て、その姿を大阪民国の害吉鉄道へと移した。 老朽機関車を魔改造した漆黒の車体は、夜の闇に溶けるように線路を走り、いまや大阪ユニオン駅から釜ヶ崎、さらにはコンクリ桟橋へと、果てしなき乗客を運んでいる。 客車の屋根には布団、ドラム缶、ブルーシート… 続きを読む
中央情報課 2 10月 2025 ウンコう日誌(第786号) 大阪民国の混沌をつなぐ害吉鉄道。その中でもひときわ異彩を放つのが、緑色の小さな車体に蓄電池を積んだ「107号動車」である。 昭和の忘れ物のような姿だが、貨物の隙間に労働者や子どもを詰め込み、ぎこちないモーター音を響かせながら、今日も大阪ユニオン駅と釜ヶ崎のあいだを往復している。 107号が特別扱いさ… 続きを読む